Q&A Q=和久井光司 A=森川欣信(オフィス オーガスタ社長)
Q: BELAKISSは森川さんがネット・サーフィンして いて見つけたバンドだそうですね。
A: うん。去年の夏だったかな、偶然You Tubeで、ルアリーとベンがプリムロウズ・ヒルで撮ったPVを 観たんですよ。
ご存じのように、ぼくは熱狂的な ビートルズ・ファンですから(笑)、この期におよんでなおビートルズの 新しい情報を日夜探してます。
それはもう癖になってるから、その日もYou TubeでB、E、と検索をかけたんです。
そしたらBeach Boysなんかと並んでBELAKISSというのが出てきた。
「何だ、これ?」と思って観てみると、ルアリーもベンもギターを左にかまえて弾いてる。
一瞬「ふたりして左利き?」と思ったんだけど、 どう見ても手つきがぎこちないからすぐにジョークだと わかった。
まず、そういうセンスが面白いと思ったんです。 モンティ・パイソン的というかな、英国的なユーモアのセンスがね。
ところが曲はいたって真面目で、哀愁のあるメロディが好みだった。
Q: それでコンタクトをとったわけですね?
A: 結果的にはそういうことになるんだけど、最初にYou Tubeで観て、何となくたぐって行くと実は4人組の
バンドだと言うことがわかった。
サウンドもエレクトリックだし。だから、とにかく一度ライヴを観たい、と思ったんですよ。
そんなとき、ウチのあらきゆうこ(オフィス オーガスタ在籍ドラマー)がプラスティック・オノ・バンドのツアーで
アイスランドに行くことになったんで、彼らにコンタクトを取り、その時期にライヴはないのかって メールを出したら、ロンドンで演るっていう。
それで、じゃあついでにBELAKISSを観てくるかってことになったんですよ。
Q: で、ライヴを観て気に入ったんですね。その段階でビートルズの孫娘とシャドウズの息子のバンドだっていうことは?
A: 知らなかった。ベースの女の子がターシャ・スターキーって名前なのは知ってたんだけど、
リンゴ・スター (=リチャード・スターキー)と同じ名字なのか、珍しいなっていうぐらいの感じ。
そしたらロンドンの ライヴ会場にターシャの両親が来ていた。で、ザック・スターキーを認識したんです。
母親がオーガスタ・スターキー。この時点でターシャがリンゴ・スターの孫だってわかったんです。
ぼくが「オフィス オーガスタの...」って名乗ったら、 母親の方は「あら、私と同じ名前なのね。ターシャ、この人に面倒見てもらいなさい」なんて気さくに握手して。
ちょうどその二日前にリンゴ・スターに会ったばかりだったから、こっちもただならぬ縁を感じてさ。 ビートルズ・ファンとしては嬉しくなったわけです。 ただ、ターシャは自らをリンゴの孫だとは名乗らなかったんで、このときはリンゴの話には触れませんでした。
それが理由で彼らに接触したわけではないし。それよりも彼らのサウンド、ルックス、パーソナリティーを ぼくは瞬時に気に入っていた。
この日はルアリーが積極的に話をしてくれました。
「ぼくの親父はシャドウズのドラマー(トニー・ミーハン)だったんだ。シャドウズは知ってる?」
それもちょっと驚いたよね。
「シャドウズは日本でも有名だよ」
このBELAKISSってバンドにはドラマー・ファミリーのメンバーが二人いるんだって思ったよ。
Q: ビートルズの孫、シャドウズの息子っていうのは公表してなかったんですね?
A: うん。親の七光りみたいなので注目されるのは嫌だったんじゃないかな。
そういう意味では純粋に 音楽と向き合ってるバンドなの。だから余計に好感が持てたんですよ。
Q: ステージを観た印象っていうのはいかがだったんですか?
A: いいと思った。女性ベーシストというとヘンにセクシーさを売りにしてたりするものだけど、
ターシャはそういうタイプじゃなかったしね。ホット・パンツなんか履いて格好は女の子っぽいんだけど、
ほかの男連中と対等な感じがした。
ルアリーとベンのハーモニーはただ三度でハモってるだけじゃなくて、クロスするんですよ。
エヴァリー・ブラザーズからビートルズに受け継がれた伝統を、ちゃんと継承してる。
そこにターシャのコーラスが加わると、またいい。
ぼくの好きなギター/ギター/ベース/ドラムっていうシンプルな編成で、フロント3人がハモる。
これは美しいな、と。そういう「バンドとしてのたたずまい」に惹かれたんです。
Q: 近年の英国ギター・バンドはハーモニーの面が弱いですもんね。
A: そうそう。 BELAKISSだってオアシスやレディオヘッドの影響は受けてると思うけど、
わかりやすいメロディにヴォーカル・ハーモニーをつけていく姿勢は、ぼくのバンド美学とぴったり合った。
それと、ルックスがいいんですよ。ロック・バンドにありがちな暴力的なイメージとか、貧しい感じがない。
実に近寄りやすい人たちなのね。どこか上品なんだよ。
むかし高崎一郎さんがビートルズのライナーに「イギリス青年紳士」って書いてたけど、 まさにそんな感じ。
ビートルズが出てきたときに、ぼくら日本人はあの黒っぽい髪の毛に親近感を覚えたはずだし、いつも彼らは笑顔で気取りがなかった
憂いを含んで険しい表情をしてるどこか遠い存在だった50年代のスターとは違って同時代性を見ていたんだと思う
BELAKISSのメンバーの柔らかい感じは、それに近いんですよ。
Q: でも、洋楽が売れないこの時代に、日本先行デビューでロンドンのバンドを手掛けるというのは並の覚悟じゃないですよね?
A: 洋楽であれ邦楽であれ音楽業界が厳しい状況にあるのは、送り手にも問題があると思う。
同じようなバンドが多いっていう傾向は世界的なことだけれど、ちゃんとプロデュースしてアーティストの
個性を伸ばしていって、音楽に即した売り方をすればそれなりのものに育っていくと思います。
音楽的なプロデュースができてないからみんな同じように聴こえてしまうし、同じような音だから売り方も同じになってしまう。
悪循環だよね。さいわいオフィス オーガスタはそういうスパイラルに巻き込まれないできた会社だから、
他社がやらないこと、つまり洋楽のアーティストをやってみるのも面白いんじゃないかと思った。新しい試みとして。
Q: むかしはクイーンとかチープ・トリックみたいに、日本から火がついたバンドっていうのがいましたもんね。
A: うん、それなんだ。実はBELAKISSに出会う数カ月ぐらい前、ニューヨークでカズ宇都宮さんと会って、そんな話をしてたんですよ。
カズさんはロンドン大学でブライアン・メイと同級だったから、クイーンのデビューが決まったときに 日本への橋渡しをした。
彼の推薦で渡辺音楽出版が日本でのライセンスを獲得した。
クイーンの人気がまず日本で爆発したのは、『ミュージック・ライフ』が騒いで、渡辺プロが普通の洋楽アーティストとは
違う仕掛けをしたからであって、クイーンの中の「日本で受ける要素」 にちゃんと スポットを当てていたんです。
音楽人にとって「世界で売る」っていうのはひとつの夢ですから、 ぼくも元ちとせをチーフタンズやディープ・フォレストでそれを試みた、
でもひとつには言葉の問題ってあるでしょ? 日本人アーティストの海外での最大の成功例はYMOだと思う。
あれだけ高い企画力があっても日本から世界へっていうのはやはりまだ限界がある。
だったら、洋楽のアーティストを日本から世界に向けて売るっていう方が 可能性は高いんじゃないか、
と思ったのがBELAKISSと契約した、ビジネス面での最大の理由かな。アーティストは海外の人でも企画は日本みたいな。
Q: バンド側からの抵抗はなかったんですか?
A: うん。日本先行でレコード・デビューするっていうことには、むしろ興味を持ってくれたんです。
英国は日本よりもCDが売れなくなってるから、新人はまず配信でやってみるって傾向が 強くなってる。BELAKISSの連中は配信という形態をあまり信じてなくて、CDをリリースしたいって強く希望してた。
ぼくもモノがないと音楽を買った気がしないタイプだから、そこでも意見が合ったんです。
Q: 洋楽のレーベルを新たに立ちあげるわけではないんですね?
A: アリオラ ジャパン/オーガスタ レコードからのデビューということになります。
スガ シカオやスキマスイッチと同じ立場。
オーガスタの新しいビジネスモデルになれば良いですね。
曲はだいたいルアリーとベンが書いてるんだけど、ときにターシャが加わってる。
だから、作者が「ミーハン/シェルドリック/スターキー」ってクレジットの楽曲をウチが管理することになるわけで、
これはビートルズ・ファンとしては実に感慨深い(笑)。
Q: ネット・サーフィンしていて見つけたバンドが、ビートルズとシャドウズの子息たちで、
そのレコード・デビューに関わることになるっていうのは、偶然から始まったにしては出来過ぎのストーリーですよね。
ブライアン・エプスタインがやってたレコード店に、「マイ・ボニー」のシングルはありますか? って客が尋ねてくる、ビートルズ物語の最初の1ページを思い出させます。
A: そうでしょ? BELAKISSのメンバーにぼくのビートルズ好きが高じてこうなったと思われたら困るんだけど、
どこかでそういう、「夢みたいな偶然」を探してるようなところが、ぼくにはある。
そのアンテナに ひっかかってきたのはきっと「縁」があるから。
縁あって手掛ける以上、BELAKISSのメンバーが音楽家として立っていけるような第一歩をプレゼントしてあげたいな、
と思ってるんです。
Q: ところで、BELAKISSっていうのはどういう意味なんですか?
A: スペイン語で「ワンダフル・キス」みたいな意味らしいんだけど、その一方、
BELAKISSっていう稀代の殺人鬼 がいるんだって。つまり、真逆なイメージのダブル・ミーニングになってるわけね。
そんな言葉のセンスもいかしてると思ったんですよ。