2021.04.28(Wed)
『thanks to Japan Tour』ファイナル4/24東京公演ライブレポート公開!
2/11(木)鹿児島 Bar MOJOから4/24(土)東京 BLUES ALLEY JAPANまで
全国27か所30公演が行われた『さかいゆう thanks to Japan Tour 2021』の
ツアー最終日4/24(土)東京 BLUES ALLEY JAPAN公演の、
青木優(音楽ジャーナリスト/ライター)氏のライブレポートが公開。
とても感動的なライブだった。
「念願の、僕の大好きなハコ、BLUES ALLEYでの初ライブ!」
1曲目、ドラムの音に自分の声とキーボード、それにベースも加えて作るループの音源とともに「His Story」を唄い終わったさかいゆうは、笑顔でそう言った。オーディエンスから大きな拍手が返る。彼によると、この日の会場であるジャズクラブ、BLUES ALLEY JAPANの店長には10年以上前から声をかけられていたそうで、それが全国27都市を廻った今回の弾き語りツアーの最終公演として、ついに実現したのだ。「このお店はマイルス・デイヴィスがこけら落としをしたらしいんですよね」「ここ、音がブルーなんですよ。憂いがあるというか」……喜びを隠しきれないMCに、会場の雰囲気もあたたたくなっていく。
ステージは最新アルバム『thanks to』を軸に進み、途中から店のグランドピアノに移っての弾き語りに。やがて、先ほどまでのほころんだムードが4曲目「BACKSTAY」で少しだけ変わったと感じたのは、僕の気のせいではないと思う。人と人とが支え合うことをテーマにしたこの曲の中盤で、さかいは偉大なミュージシャンたちの名前を出して唄ったのだ。村上ポンタ! 美空ひばり! ビリー・ホリデイ! と。
美空ひばりとビリー・ホリデイは、さかいがかねてからリスペクトを表明してきた、まさに音楽史に残るシンガーだ。そして惜しくもこの3月に逝去したドラマーの村上ポンタ秀一の話は、その後のカバー曲のコーナーで触れられた。自分のキーボードに戻り、カーペンターズの「Close To You(遥かなる影)」をソウル指数高めのアレンジで披露した次にさかいが唄ったのは、槇原敬之の「遠く遠く」。彼はこの曲を槇原のトリビュートアルバム『We Love Mackey』(2011年作)でカバーしており、その時のドラマーがポンタ氏だったのだ。さかいとはライブでも共演するなど交流を続けた間柄であり、またポンタ氏はこのBLUES ALLEYで相当数の出演を重ねた存在だった。「ポンタさんに届くといいなぁ」……そう言ってこの曲を唄うさかいの声には、特別な感情が宿っているようだった。
その後はもう一度ピアノに座り、「愛の出番」が唄われる。今春に書き下ろした新曲で、唄いだしこそ男女間をテーマにしたように思えるバラードだが、曲が進むと、人間同士の分断を愛によって超える大切さが唄われているのがわかる。今の時代が抱える問題に言及した、真摯なメッセージソングだ。
そしてさかいが「ポンタさんが愛した、ここBLUES ALLEYで唄いたい曲があります」と言って演奏したのは「君と僕の挽歌」だった。亡くなった親友に唄いかけるこの歌が、この日はいっそう印象深い曲になった。彼は自分のエモーションの中の大事なものは音楽に込めるアーティストで、その分、何かを大げさに語ったり、ステージでも過度に感情的になったりする場面はほとんどない。しかしこの歌では、感情が、思いが、歌のすき間からこぼれていた。せつなさが、悲しみが、歌声の中ににじんでいた。こちらも涙腺がゆるんだ。
ライブは、ピアノと客席の手拍子の掛け合いを呼んだ「21番目のGrace」で本編を終了。アンコールに選ばれたのは「崇高な果実」だった。争いに、無残な戦いに向かう、人間の愚かな姿。そして歌詞の最後で唄われる<愛だけが 愛を 知ってる>という一行。この歌を締めくくる直前のさかいのスキャットは、マーヴィン・ゲイの名曲「What’s going on(愛のゆくえ)」を意識していた。そう、70年代のベトナム戦争の当時、世の中の行方を憂い、平和を願った、偉大なソウル・シンガーのあの声だ。全曲を唄い終え、ちょっとホッとしたような表情を浮かべたさかいは、テーブルの間を縫って楽屋に帰っていった。
さかいゆうはこの後、5月12日に「愛の出番」をメインにしたアルバム『愛の出番 +thanks to』をリリース。さらに6月6日には同曲をタイトルに掲げたコンサートを日比谷野外大音楽堂で行うことが決定している。きっとそこでは奔放なサウンドと一緒に、ひるむことなく愛の大切さを唄う彼の歌声が堪能できるはずだ。
(文・青木 優)
全国27か所30公演が行われた『さかいゆう thanks to Japan Tour 2021』の
ツアー最終日4/24(土)東京 BLUES ALLEY JAPAN公演の、
青木優(音楽ジャーナリスト/ライター)氏のライブレポートが公開。
とても感動的なライブだった。
「念願の、僕の大好きなハコ、BLUES ALLEYでの初ライブ!」
1曲目、ドラムの音に自分の声とキーボード、それにベースも加えて作るループの音源とともに「His Story」を唄い終わったさかいゆうは、笑顔でそう言った。オーディエンスから大きな拍手が返る。彼によると、この日の会場であるジャズクラブ、BLUES ALLEY JAPANの店長には10年以上前から声をかけられていたそうで、それが全国27都市を廻った今回の弾き語りツアーの最終公演として、ついに実現したのだ。「このお店はマイルス・デイヴィスがこけら落としをしたらしいんですよね」「ここ、音がブルーなんですよ。憂いがあるというか」……喜びを隠しきれないMCに、会場の雰囲気もあたたたくなっていく。
ステージは最新アルバム『thanks to』を軸に進み、途中から店のグランドピアノに移っての弾き語りに。やがて、先ほどまでのほころんだムードが4曲目「BACKSTAY」で少しだけ変わったと感じたのは、僕の気のせいではないと思う。人と人とが支え合うことをテーマにしたこの曲の中盤で、さかいは偉大なミュージシャンたちの名前を出して唄ったのだ。村上ポンタ! 美空ひばり! ビリー・ホリデイ! と。
美空ひばりとビリー・ホリデイは、さかいがかねてからリスペクトを表明してきた、まさに音楽史に残るシンガーだ。そして惜しくもこの3月に逝去したドラマーの村上ポンタ秀一の話は、その後のカバー曲のコーナーで触れられた。自分のキーボードに戻り、カーペンターズの「Close To You(遥かなる影)」をソウル指数高めのアレンジで披露した次にさかいが唄ったのは、槇原敬之の「遠く遠く」。彼はこの曲を槇原のトリビュートアルバム『We Love Mackey』(2011年作)でカバーしており、その時のドラマーがポンタ氏だったのだ。さかいとはライブでも共演するなど交流を続けた間柄であり、またポンタ氏はこのBLUES ALLEYで相当数の出演を重ねた存在だった。「ポンタさんに届くといいなぁ」……そう言ってこの曲を唄うさかいの声には、特別な感情が宿っているようだった。
その後はもう一度ピアノに座り、「愛の出番」が唄われる。今春に書き下ろした新曲で、唄いだしこそ男女間をテーマにしたように思えるバラードだが、曲が進むと、人間同士の分断を愛によって超える大切さが唄われているのがわかる。今の時代が抱える問題に言及した、真摯なメッセージソングだ。
そしてさかいが「ポンタさんが愛した、ここBLUES ALLEYで唄いたい曲があります」と言って演奏したのは「君と僕の挽歌」だった。亡くなった親友に唄いかけるこの歌が、この日はいっそう印象深い曲になった。彼は自分のエモーションの中の大事なものは音楽に込めるアーティストで、その分、何かを大げさに語ったり、ステージでも過度に感情的になったりする場面はほとんどない。しかしこの歌では、感情が、思いが、歌のすき間からこぼれていた。せつなさが、悲しみが、歌声の中ににじんでいた。こちらも涙腺がゆるんだ。
ライブは、ピアノと客席の手拍子の掛け合いを呼んだ「21番目のGrace」で本編を終了。アンコールに選ばれたのは「崇高な果実」だった。争いに、無残な戦いに向かう、人間の愚かな姿。そして歌詞の最後で唄われる<愛だけが 愛を 知ってる>という一行。この歌を締めくくる直前のさかいのスキャットは、マーヴィン・ゲイの名曲「What’s going on(愛のゆくえ)」を意識していた。そう、70年代のベトナム戦争の当時、世の中の行方を憂い、平和を願った、偉大なソウル・シンガーのあの声だ。全曲を唄い終え、ちょっとホッとしたような表情を浮かべたさかいは、テーブルの間を縫って楽屋に帰っていった。
さかいゆうはこの後、5月12日に「愛の出番」をメインにしたアルバム『愛の出番 +thanks to』をリリース。さらに6月6日には同曲をタイトルに掲げたコンサートを日比谷野外大音楽堂で行うことが決定している。きっとそこでは奔放なサウンドと一緒に、ひるむことなく愛の大切さを唄う彼の歌声が堪能できるはずだ。
(文・青木 優)