もともとは杏子のシングル曲だったんだけど、1998年4月12日に杏子、山崎、スガの3人がZepp Sapporoのこけら落としイベントに出演した時この曲を歌ってみたら、三声のハーモニーがすごく良くて。いずれ3人でリリースできたらいいなぁってぼんやりその時は考えてた。1960年代のイギリスやアメリカには有名ミュージシャンたちが一堂に会したスーパーグループが幾つもあって、オレはその形態がとても好きだったから、そういう誰が出入りしてもいい自由な形のユニットを作りたかったんだよ。当時オーガスタには、杏子、山崎、スガ しか所属していなかったから、この3人でスタートしたわけだけど、いずれオーガスタ所属のアーティストが増えた場合、みんなでやるユニットを“福耳”って形でできるなら理想だなって思った。それが今やオーガスタの歴史には欠かせない現実のユニットになった。毎年リリースしてきたわけではないけど、Augusta Campという野外イベントとともに20年間、存在しているなんて、嬉しい限りだよね。
オフィス オーガスタ設立10周年を迎えた2002年、そのための歌を作りたいと思い立って福耳メンバーに話をしたことから、この曲が生まれた。まず杏子、山崎、スガの3人が集まって何ができるのだろう?というところから、オレが杏子のイメージでラテン・テイストの曲を作ってほしいとリクエストして、山崎が曲を作り、杏子が10周年というキーワードをもとに歌詞を書き、スガはアレンジを担当した。まさにあの3人がスタジオに集まって作り上げた、10周年を飾る社歌のような作品になったね。この年は元ちとせのメジャー・デビューもあったから、彼女のパートも入れようということになり、Dメロとしてスキャットを入れて。さらにCOIL、あらきゆうこ、野狐禅、サンプリングサン、スキマスイッチも参加して、2002年7月17日に福耳の2ndシングルとしてリリースした。2曲目にして、もう福耳はオーガスタ所属のアーティストほぼ全員で構成するユニットに成長したってこと。
この曲はもともと杏子のアルバムのためにCOILの佐藤洋介が書いた曲だった。なんか最初は重くてスローな曲だったよ。それでちょっとおバカなワイワイしたアレンジに切り替えた。祭りっぽいっていうかね。オーガスタ・スタジオでレコーディングをしていて、たまたま来ていた山崎に声をかけたら、彼がハーモニーで参加してくれて。この時点でオレはこの曲は福耳のレパートリーにしたいと考えた。杏子と山崎がメインでさらにスガ、ちとせ、COILも参加して、この曲が完成した。それで、この年のAugusta Campのテーマソングにしようということになったんだ。オレはタイトルにもなっている“サマー・オブ・ラヴ”というキーワードがずっと以前から好きで。この言葉は1967年の夏、アメリカ西海岸を中心に巻き起こったヒッピー文化=フラワー・ムーヴメントの中から生まれたベトナム反戦へのスローガンでもある。その時代の文化的エポック・メイキングな言葉。その時期にサマー・フェスのはしりであるモントレー・ポップ・フェスティバルが開催された。折しも福耳のこの曲がリリースされる2年前、2001年9月11日にアメリカ同時多発テロ事件が起きて、アメリカはアフガニスタン紛争やイラク戦争に介入、突入して行く。ベトナムの悲劇をアメリカはまた繰り返すのかと憤って、オレは1967年の“サマー・オブ・ラヴ”ムーヴメントを思い起こして、“Augusta Camp 2003”は、オレたちの“サマー・オブ・ラヴ”を唱えようと思ったんだ。オレたちはこの戦争を対岸の火事とは言っていられない。戦争は起こしてほしくない。戦争が起こす悲劇を考えよう。この曲が平和の大切さを意識するきっかけになればいいと思った。つまり“ラヴ&ピース”を見つめ直そうという意味でこの曲を発表したんだ。
「SUMMER of LOVE」のカップリング曲。作曲者のM&Gとは、ギタリストの間宮工氏とオレ。この曲は最初からみんなで歌えるように、みんながコーラス参加できるようにということを念頭において作った。例えば、ちとせのパートはココだ、杏子はココだ、山崎はココ、スガはココというように決めてコーラスはメンバー全員で追いかけるといった感じ。それから、この曲は“世界中にテロが起こったけど、オレたち人間には再生していく力がある”ということをテーマにして書いた。これはまさにオーガスタ版「All You Need Is Love」。この年の夏にはそういう意識が強かったからAugusta Camp 2003のサブタイトルを「SUMMER of LOVE」にした。「SUMMER of LOVE」と「ALL OVER AGAIN」は同じコンセプトの曲。後に2011年には、東日本大震災の年のAugusta Camp で被災地の復興への願いを込めてセットリストに加えられたね。
これはスキマスイッチの二人が持っている素晴らしいメロディー・ラインが結集されて出来た曲で、ものすごく考えられたポップな作品に仕上がっている。この曲も福耳のメンバーで、代わる代わるボーカルを歌い分けした。言葉の乗せ方には作った人間のリズムがあるから、それぞれ自分の解釈とは違った表現をするのはなかなか大変だったと思うよ。しかも、繰り返しのたびにハーモニーを変えたりするのがスキマスイッチの色だから、どうやらそこにスキマ以外の福耳のメンバーはストレスを感じていたようだけど、そんなメンバーをよくぞシンタと卓弥の2人はうまくまとめてプロデュースしてくれたよね。スキマスイッチの躍進、成長もあってなんか新しい福耳の始まりを感じて嬉しかった。蛇足だけどこの曲で福耳がテレビ出演した時、テレビ局の廊下で忌野清志郎にバッタリ会ったんだよ。そしたら彼が「俺も福耳に入れてくれねえか?」って言うんだよ。彼もいろんな賑やかしのユニットやってたからね。結局叶わなかったけど、もし彼の参加が実現してたら面白かっただろうね。
洋楽のエッセンスを多分に含んだ福耳初のロックチューンだね。オーガスタのアーティストにまつわる曲のタイトルを散りばめて歌詞の中に凝縮させたあたりは、詞曲を作ったサダ(岡本定義)のセンスとユーモアがよく出てる。そしてCOILのプロデュースで、外部のミュージシャンやアレンジャーを使わず、すべてオフィス オーガスタ内のアーティストだけで作った、まさに福耳、オーガスタな曲。レコーディングエンジニアもCOILの佐藤洋介が務めてる。だから聴きどころはたくさんあると思うよ。杏子のヴォーカルも華やいでいるし、元ちとせのミドル・セクションも味わい深い。また山崎とスガが激しいギター・バトルを聴かせ、長澤はギターの他にシャウトまで披露、まさにカラフルで楽しめる1曲。
「DANCE BABY DANCE」と両A面で、こちらもCOILプロデュース。「DANCE ~」とはメインボーカルを入れ替えて、爽快感溢れるポップ・チューンになってる。サダ(岡本定義)が紡ぎだすメロディー・ラインはいつもながら本当に感心するよね。彼の作る楽曲は、万人が捉えやすく耳馴染みもよくて。この曲は2008年のABC夏の高校野球統一テーマ曲になることが決まっていたので、それを意識してサダが書き下ろした。甲子園には数々のドラマがある。ほんのちょっとのミスで勝利を逃してしまったり、意識もしなかった運が自分に味方したり。。。そういうところをサダは明確に捉えて歌詞にしてる。それは人生も同じことで、“色々な失敗や挫折があったとしても、人生は進んでいくし、やり直しはきくんだよ”という意味をすごくうまく歌詞の中に描いた。サダは遊び心のある曲も書くが、こういった押しつけがましくないメッセージをさりげなく表現するのが実に上手いよね。そしてこう言うメロディーを歌わせたら秦 基博の声はα波が出まくりだよね。
当時、さかい(ゆう)がデビューして3年くらい経ってた頃だったのかな。オレが「君と僕の挽歌」とかのレコーディングに関わって、さかいとの密なやりとりが増えていた時期だったから、オーガスタの設立20周年に際して福耳の新曲を作ろう、ってなったわけさ。で、「今回はさかいが書いてみたら」って提案したのが始まりかな。さかいはあっという間にメロディを書いてきて、歌詞を一緒に練っていったのを覚えているよ。彼がデビューしたとき知らないうちにキャッチコピーが「涙をいざなうシルキーボイス」になってた。こんなキャッチ誰がつけやがったんだってオレは憤ってたのを覚えてる(笑)実際の彼は柔らかくてSweetな声がメインじゃない、むしろもっと強くてファンキーな声こそ彼の本質、その強い魂の声こそ涙を誘うんだよ。「君と僕の挽歌」しかり。だから優しくも力強い彼の声で作品を仕上げろって言ったのを覚えてる。で、この曲が完成した。曲調やコーラスが目まぐるしく変わる、ビートルズっぽい感じもいいよね、オレの趣味でもあるし。
オーガスタ設立25周年を迎えるにあたって、5年ぶりに福耳の新曲を出そうっていうことになって、福耳の楽曲はオーガスタのアーティストが交代でプロデュースする、って流れがあったんだけど、その前の年にデビュー10周年を同時に迎えた長澤(知之)と秦(基博)が1曲ずつ書いてくれたんだよね。「ブライト」は長澤らしい、8ビートで突っ走っていく、まるで野火のように疾走感溢れるロックナンバー。人の心にダイレクトに突き刺さるけどとてもそれは優しい。「Swing Swing Sing」はポップなんだけど、やっぱり秦の曲というか、秦らしさが全面に出ている曲になったよね。秦らしさ?躍動と癒し、人の心に風のように入ってくる。どこかホッとするけど気がついたら元気をもらえてる。かつてオレはヤマ(山崎まさよし)が太陽ならシカオ(スガ シカオ)は月だって言ったことがあるけど、長澤と秦は例えて言うなら火と風。違うタイプの2人が同時期にデビューして、それぞれの個性を出して成長してるっていうのがオレは頼もしい。この先オーガスタの中核を担っていってくれると思ってるよ。それに戻って来た竹原ピストルの参加も嬉しかったね。まさに“帰って来たガンマン”だよ(笑)「Swing Swing Sing」についてタイトルは「今を目いっぱい!」にしようと提案したんだけど見事に秦から無視された。
福耳に、日清フーズ「マ・マー」タイアップの話があって、曲は松室(政哉)が書いた。次の世代にバトンを受け継いで行く、それこそ福耳ってプロジェクトのテーマでもあるしさ。松室っていう新たな才能が福耳のメンバーに加わったことが嬉しい。浜端ヨウヘイ、村上紗由里もね。歌詞はサダ(岡本定義)があっという間に書いてきてくれたんだよね。商品名をかけて、「飾らないまま ありのまま」「なにげないまま なすがまま」って。英語の歌詞でも「mama」っていうフレーズは時代に関係なくよく出て来るだろ?ロックやR&Bなんかで使うオキマリなフレーズだしさ。サダはCMの事も考えて「mama」を多用したんだよ。CMも頑張ってるお母さんを励ます内容だったし、サダはそういった韻を踏んだり、意味がなくてもリズム感覚で意味を持たせたりするのが本当にうまい、サービス精神というかさ、そういう気配りと発想、それでいてウィットに富んだところがあるよね。
ボブ・ディランに「It's Alright, Ma」っていう曲(※1965年「Bringing It All Back Home」収録)があってさ、「(この曲のタイトルが「イッツ・オールライト・ママ」なのは)ボブ・ディランっぽすぎないか」ってオレが言ったら、サダが「それがいいんですよ。」って。洋楽好きにも引っかかるようなタイトルを意識してるわけさ。
この曲もサダの曲と詞が素晴らしい。サウンドプロデュースはスキマスイッチで、世界観の大きさに彼らの「らしさ」が出てる。夏の木陰でひんやりした風を受け、ゆく夏を惜しむ儚さ、そんな心情を思い出させてくれるような、切なくも爽やかなアレンジ。夏っていうのは一番輝いていて、1年を人生に例えるとまさに真っ盛りな時期に例えられる、夏の始まりは賑やかにキラキラワクワク輝いていて、夏の終わりは静かに愁いを帯びて…。もちろん毎年季節は巡ってくるんだけど、気が付くと夏ってあっという間に慌ただしく過ぎちゃってさ、オレなんかは人生の夏をとうに通り過ぎてるはずなのにまだ気持ちはどこかこの季節から去って行けないというか。それで「あたりまえのように夏が何度も訪れるけれど 君はいない 永遠じゃない」って、なんかこの歌から時間の経過を思い知らされるような気がしてさ、オレの追悼歌なの?ってサダに訊いたら、あいつオレの葬式で流すために作ったなんて言ってたんだよ(苦笑)そういうブラックなところもまたサダでさ。
でもAugusta Campのテーマだと取ればそれは前向きな解釈ができる。出演者、お客さん、大勢の人が集って、真夏の夢のような宴が繰り広げられ、その最後に花火が上がって、みんな現実に戻っていく。さあ、街へ帰ろう、夢が終わった気がしちゃうけど、来年も夏はやってくるし、来年もまたAugusta Campで会おうみたいな。「夢の中で見た夢は夢から醒めるって夢だった 夢じゃないよね?」この歌詞のように現実を確認してまた夢を見つつ人生は続いていく。ただ今年と同じ夏はもう来ない、この瞬間は一度きりで、だから来年の夏も一度きりしか来ない。その瞬間にいる君は一度しかない。つまり「今を一生懸命生きよう」っていうメッセージも含まれてるよね。