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岸田 繁(くるり)、竹原ピストル、山内総一郎(フジファブリック)、
あらきゆうこ……神様の見守る中、島根県美保関で「神と海の祭 2024」開催






 美保関がどこにあるか、ご存じだろうか?
 島根半島の突端。水木しげるで有名な鳥取県境港市から県境の橋を渡り車で20分ほどの歴史ある港町。そこが秋の一日、文化の熱に染まった。
「神と海の祭」は2012年、地元の有志が「島根の素敵な営みや文化を知ってほしい」という想いからはじめた音楽フェスだ。この趣旨に境港出身のドラマー・あらきゆうこが賛同。彼女は境港市のFISH大使であり、音楽を通して広く山陰地方をつなぐ活動にも尽力している。これまで杏子、Salyu、小林武史、フジファブリック、ポラリスなど、自身と縁のあるミュージシャンを美保関に呼んできた。
 イベントはコロナの影響で中断していたが、このたび6年ぶりに復活。10月26日、気持ちのいい秋晴れの中、開催された。
 「神と海の祭」は音楽ライブがメインだが、この日は美保関全体がアートに包まれる。「MIHONOSEKI ART FESTIVAL」と銘打って通りのあちこちで山陰のミュージシャンが演奏し、ライブペインティングが行われる。絵本のワークショップもあれば、地元の食が楽しめる飲食ブースも出る。普段は静かな漁村が、この日ばかりは人であふれる。
日が傾きはじめた17時半、老舗旅館の前に今日の出演者が集まった。岸田 繁(くるり)、竹原ピストル、山内総一郎(フジファブリック)、あらきゆうこ。彼らは提灯のあかりに先導されて風情の残る青石畳通りを歩き、会場の美保神社に向かっていく。演者は全員、京都のファッションブランド「merph」がこの日のために制作した衣装を着る。白装束に身を包んだ隊列は神聖なムードを醸し出し、この日のライブが特別なものになることを予感させる。
 その頃、神社の境内は人でいっぱいになっている。ステージとなる拝殿はまわりをぐるりと山に囲まれ、どこか神様に見つめられているようである。ちなみに美保神社に祀られているのは歌舞音曲の神様だ。
 拝殿に上がった4人はご祈祷を受け、玉串を供え礼拝。神主の祝詞の後、メンバーを代表して竹原が献曲した。アカペラの「ドサ回り数え歌」。観客も終始、厳かに神事を見つめていた。
 ライトアップされ闇に浮いているように見える拝殿がより神秘的に感じられる。
 最初に舞台に上がったのは山内総一郎。客に一礼、奥のご祭神に一礼。「今日は神様とみなさんの前でできることを感謝しながら演奏したいと思います」。そう語った後、さざなみのようなアルペジオから「ブルー」の演奏がはじまった。のびやかな声と丁寧なギターの音は、神様に音楽を捧げるようなピュアさがある。次はアルペジオにビートを加えた「Water Lily Flower」。山内は美保関に呼んでくれたあらきに触れ、そのまま彼女を呼び込んだ。あらきが姿を現すと、大きな拍手が鳴り響く。
 コラボ曲は「Green Bird」。弾き語りとドラムの共演は滅多にないが、これが非常に面白い。あらきはリズムが入ったことを気づかせないよう自然に曲に入り、山内の歌を支えた。気配を消し、そっと歌に寄り添う。たった一曲でも彼女が多くのミュージシャンから愛される理由がよくわかる演奏だった。

 2人目は竹原ピストル。同じアコギと歌なのにここまで違うかと驚かされるザラついた音。のっけから「おーい!おーい!!」「LIVE IN 和歌山」「みんな~、やってるか!」と畳み掛ける。彼の歌は心の内面をえぐるものが多いが、この状況で聴くと真正面から神様と対峙しているように見える。山内もそうだが、神前でのたった一人の弾き語りというスタイルが否が応でも各表現者を裸にするのだ。
 まさに讃美歌の「Amazing Grace」を経て、こちらもあらきを呼び込んで「俺のアディダス~人としての志」。歌の中心に芯を通すこの曲もよかったが、白眉は直後だった。「2分余ったんでもう1曲やらせてください!」と突然はじまった「狼煙」。ハンドマイクの竹原のラップとあらきのビート。刃と刃のぶつかり合い。どちらも圧巻の太刀さばきだ。

 柔、剛ときて3人目の岸田 繁は飄々と場内を掌握した。いきなり鹿児島民謡「鹿児島おはら節」、ソウル・フラワー・ユニオン「潮の路」カバー、瀬戸内海をモチーフにした新曲。神と海の祭の“海”にフォーカスした3連投で新鮮な混沌を創り出す。
「そろそろまじめにくるりの曲をやらないと神様にも主催の人にも怒られるかも」と冗談めかして、人気曲「男の子と女の子」「ハイウェイ」。「曲が出てくる時は神社で祈る時に似てる」と話したが、彼もやはり神前という部分は意識していたのだろう。実際「ブレーメン」は祈りを込めた讃歌のようで、歌は拝殿の上の星空に昇っていった。
 「太陽のブルース」で合流したあらきは、ここでは盟友のリズム。信頼するドラムの上で歌う岸田は実に気持ちよさそうだ。山内も入れて3人で演奏した名曲「Remember me」も、時空を超えるこの空間に似合わないはずがなかった。

 アンコールは出演者全員で「よー、そこの若いの」。竹原の歌、山内のギター、岸田のブルースハープ、そしてあらきのドラミングが大団円を奏でる。境内のあちこちに、子供にステージを見せるための肩車の塔が立ち並ぶ。
 この曲の前にマイクを向けられたあらきはこんなことを言っていた。
「このイベントは高校生以下無料ですけど、それは素敵なアーティストを生で観て音楽をはじめる人がいてもいいし、こうした地元を活性化する仕事もいいなって思ってくれる人が出てきたらいいと思って……」
 まさに“そこの若いの”へのメッセージ。音楽や故郷の次世代に、私たちは何を遺せるのだろう?
 祭は発起人であり総合プロデューサー・野津直嗣さんとあらきの一本締めで終了した。大きく響いた拍の余韻は、美保神社の境内にいつまでも残り続けた。
Text by 清水浩司
Photo by 福政良治







神と海の祭 2024
2024年 10月26日(土)17:30開場 / 18:00開演
@美保神社(島根県松江市美保関)





★山内総一郎(フジファブリック)
M1 ブルー
M2 Water lily Flower
M3 Green Bird   w/あらきゆうこ(Dr)
M4 LIFE
M5月見草

★竹原ピストル
M1 おーい!おーい!!
M2 LIVE IN 和歌山
M3 みんな~、やってるか!
M4 ただ己が影を真似て
M5 何食わぬ顔で食ってきた
M6 あ。っという間はあるさ
M7 全て身に覚えのある痛みだろう
M8 Amazing Grace
M9 Forever Young
M10 俺のアディダス~人としての志~   w/あらきゆうこ(Dr)
M11 狼煙   w/あらきゆうこ(Dr)

★岸田 繁(くるり)
M1 鹿児島おはら節
M2 潮の路
M3 新曲
M4 男の子と女の子
M5 ハイウェイ
M6 ブレーメン
M7 太陽のブルース   w/あらきゆうこ(Dr)
M8 Remember me    w/あらきゆうこ(Dr)・山内総一郎(Ag)

◆ENCORE
M1 よー、そこの若いの 
ALLCAST / 竹原ピストル(Vo&AG)、岸田繁(Harp)、山内総一郎(Ag)、あらきゆうこ(Dr)